熊本地方裁判所 平成3年(行ウ)14号 判決
原告
中島真一郎
被告
熊本県
右代表者知事
福島譲二
右訴訟代理人弁護士
舞田邦彦
右同
吉村俊一
右指定代理人
堀文昭
右同
桑山裕好
右同
廣田大作
右同
竹下喜造
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 争点1について
1 まず、本件処分は、本件規則四条三号に基づいてなされたものであるが、本件の場合に同号にいう「その他使用させることが県立劇場の管理上支障があるとき」と認められるかどうかについて判断する。
(一) 本件規則四条によれば、熊本県知事が使用許可しないことができる場合は、同条三号の場合の他は、県立劇場における秩序又は風紀を乱すおそれがあるとき(一号)及び施設及び設備を毀損し、又は滅失するおそれがあるとき(二号)である〔証拠略〕。
(二) 憲法二一条は、集会の自由を保障しているところ、集会の自由は民主主義を支える極めて重要な人権であり、県立劇場のような公共施設の利用については、利用者の調整、施設設備の維持管理等のために必要な規制は認められるというべきであるが、地方自治法二四四条にも規定されているように、「公の施設」については「正当な理由がない限り」住民からの使用申請があった場合に、これを拒否してはならないのである。
このような憲法二一条及び地方自治法二四四条の趣旨からするならば、本件規則四条三号の「その他使用させることが県立劇場の管理上支障があるとき」というのは、抽象的に管理上の支障があるというだけでは足りず、右(一)で述べた同条一号及び二号の場合に準ずるような管理上の支障を来す具体的な危険がある場合をいうと解するのが相当である。
(三) そこで、本件の場合に、本件処分当時において、県立劇場の管理上の支障を来すような具体的な危険があったと認められるか否かについて検討するに、前記第二の二で認定した事実によれば、本件処分当時においては、本件集会に対する具体的な抗議行動等は二件の使用許可申請があったことを除くと、ほとんどなされていなかったことが明らかである。
被告は、本件申請については、前回の平成三年四月九日付申請との間に時間的な隔たりが少なく、その間に特に本件申請を許可した場合の使用阻止行動が回避される事情の変更は認められず、本件申請を許可した場合、本件集会当日までの県立劇場における文化活動に支障を生じると共に、当日の使用について許可申請を予定する者が申請を避け、他の施設が実質上使用不能となるとして、本件の場合は、本件規則四条三号の「その他使用させることが県立劇場の管理上支障があるとき」に該当すると主張する。
しかしながら、前述した憲法上の集会の自由の重要性に鑑みるならば、事前の規制は慎重になされなければならないところ、本件処分と前回の平成三年四月九日付申請を巡って抗議行動等がなされた時期との間には、二か月余りの間隔があるのであり、直ちに、事情が変っていないということはできず、また、平成三年四月九日付申請は結局不許可となり、集会は県立劇場では開催されたかったため、本件処分当時において、本件集会が開催された場合に具体的にどのような混乱が生じるのかについては全く不明な状況であったのである。
しかも、本件の場合には、具体的な抗議行動等がほとんどなされていなかったのであるから、このような段階においては、本件申請を許可した場合に本件集会に反対する団体等が抗議行動等を展開することが予想されるとしても、それは管理上の支障を来す抽象的な危険に止まり、管理上の支障を来す具体的な危険が発生しているとまでいうことはできないというべきである。
したがって、本件処分は、本件規則四条三号の要件を充足しておらず、違法なものであると認められる。
2 次に、違法な本件処分をなした熊本県知事について、故意または過失があったと認められるかどうかについて判断するに、熊本県知事が法令に従って行政処分をなさなければならないことはいうまでもないことであって、法令の適用を過った場合には、それについて少なくとも過失があったというべきである。
したがって、本件の場合には、違法な本件処分をなしたことについて、熊本県知事には少なくとも過失があったと認めることができる。
二 争点2について
1 〔証拠略〕によれば、本件集会については、本件処分がなされるまでは、県立劇場以外の施設に対する申込はなされておらず、本件処分がなされた平成三年八月八日、同年一〇月五日の県立劇場大会議室の使用許可申請をなしたが、これも同月二二日に不許可となったことから、結局本件集会は、県立劇場で開催できなかったこと、そのため、平成三年九月二日、原告の所属する人権尊重を求める市民の会四宮朝子名で熊本県福祉会館に使用許可申請をなし、同年一一月二三日になってようやく人権の尊重を求める市民集会を開催することができたこと、原告は、本件申請から熊本県福祉会館について使用許可決定がなされた同年九月二日までの間、日程が決まらなかったため講師・パネラー等の対応に苦慮したことが認められる。
2 右各事実に、前記第二の二の本件に至る経緯等諸般の事情を総合すると、原告は、本件処分により精神的苦痛を受けたというべきであり、右精神的苦痛に対する慰藉料としては、金一〇万円が相当である。
第四 結論
以上によれば、原告の本訴請求は、金一〇万円及びこれに対する本件処分がなされた平成三年八月八日から支払済まで民法所定の年五分の割合による金員を求める限度において理由があるからこれを認容し、原告のその余の請求は失当であるから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 足立昭二 裁判官 大原英雄 横溝邦彦)